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第188回 【前田健太】不調原因は「リリース位置」と「球速低下」?(2021年投球分析)

2023年2月9日

前田健太投手の総評

ツインズの前田健太投手(33)が右肘の内側側副靭帯(じんたい)再建手術(通称トミー・ジョン手術)から2022年9月に超速で復帰する可能性が出てきました。

従来の術式は復帰まで平均12~16カ月かかっていましたが、前田健太投手が受けた肘に補強具(ブレース)を肘に入れる最先端の術式ではわずか9~12カ月で済む可能性があるそうです。手術を受けたのは2021年9月なので、2022年9月には復帰出来る可能性があります。

今回はそんな「【ツインズ】前田健太投手の2021年の投球分析」を紹介します。

Baseball SavantFanGraphsのデータを使用します。

まさかのトミー・ジョン手術

前田健太投手の年度別成績

2020年は6勝1敗で防御率2.70MLBトップのWHIP0.75と好成績を収め、サイヤング賞の投票で2位という飛躍の年でした。

2021年も活躍が期待されましたが、開幕から打たれることが多く、5月の登板では股関節を痛め、5月23日に故障者リスト入りしました。故障者リスト入り前の4-5月の成績は、2勝2敗で防御率5.27、被打率.301、奪三振率8.2でした。

6月14日に復帰後は4勝3敗で防御率4.24、被打率.229、奪三振率10.5と復調の気配を見せていましたが、8月21日の試合で右前腕の痛みを再度訴えて負傷降板しました。8月27日には右肘を手術することを発表して、9月1日にトミー・ジョン手術を受けて、復帰は2022年9月になる予定です。

最終的には、2021年は6勝5敗防御率4.66被打率.259奪三振率9.6の成績に終わりました。

前田健太投手の特徴としては、「球速は速くない」「球種間のリリースの差が小さい」「ストレートと変化球の見極めが難しい」「制球力が高いため四死球が少ない」「奪三振率が高い」が挙げられます。

やきゅまる
リハビリを頑張って、9月に進化して戻ってきて欲しい

2021年は6球種

前田健太投手の年別・日別投球割合(2021年)

左は年別、右は日別の投球割合で、色が球種を表しています。

2021年の持ち球はストレートツーシームチェンジアップ縦スラスライダーカーブ6球種です。

2021年序盤はツーシームスライダーの割合が多く、後半はチェンジアップ縦スラの割合が多くなっています。カットボールは2021年は投げませんでした

カーブの握りはナックルカーブのようにも見えるのですが、今回はbaseball savantの分類通りにカーブとしています。

縦スラスライダーの分類について
縦スラスライダーは「回転軸」から分類しました。「回転軸」で分類した理由は、下記のyoutubeで前田健太投手が「スライダーは握りは一緒でリリースの向き(回転軸)が違う」と発言されていたためです。

やきゅまる
もっと分類する良い方法は無いのかな?

左右投球割合は2020年と同様

前田健太投手の左右投球割合(2020-2021年)

上は2020年、下は2021年の左右別投球割合で、色が球種を表しています。

2020年と同様に、右打者に縦スラが多く、左打者にチェンジアップカーブが多いです。

また、左右共にストレートの割合がやや多くなっています。

やきゅまる
ほぼ2020年と同様の傾向

ツーシームとカーブ以外はカウント球と決め球のどちらでも使用

前田健太投手のカウント状況別投球割合(2021年)

ツーシームカーブとは初球などのカウント球で使用することが多く、その他のボールはカウント球と決め球のどちらでも使用しています。

前田健太投手の特徴としては、ボールが先行しても投球割合に偏りが見られないことです。

他の投手はボールが先行したら、ストレートなどの制球に自信があるボールの割合が多くなりますが、前田健太投手にはそれが見られません。そのため狙い球を絞りにくいです。

やきゅまる
複数のボールがカウント球、決め球になるのは凄いね

初球×

前田健太投手のカウント状況別成績(2020-2021年)

2020年に比べると、2021年は初球に打率.3606本塁打と非常に打たれています。

また、0ストライクも打率.3947本塁打と打たれています。打数自体も多いことから、ファーストストライクを狙い打たれたようです。

やきゅまる
カーブは打たれてないから、初球のカーブを増やしても良いかもね

リリース位置が約5cm高く、約5cm球離れが早い

前田健太投手のリリースポイント(2020-2021年)

左図は捕手目線、右図は三塁側から投手を見たリリースポイントです。△はMLB平均のリリースポイントです。

2020年と比べると、リリース位置が約5cm高く約5cm球離れが早いです。

前田健太投手の特徴としてはカーブを除いて、球種間のリリース位置の差が非常に小さいです。

エクステンションについては、意外にもMLB平均よりも球離れが早いです。

これは本人のyoutubeでも「歩幅を広すぎないようにしている」と語っていたので、歩幅の小ささと体格の影響と考えられます。必ずしも「エクステンションが大きい」が良い訳ではないのが、野球の難しいところです。

やきゅまる
歩幅のデータも将来的には解析してみたいね

不調の原因は球離れが早いこと?

前田健太投手の離脱前後のリリースポイント

上図は5月23日に故障者リスト入りする前後のリリース位置(三塁側からの目線)です。△は2020年の前田健太投手のリリース位置です。

離脱前は赤丸で囲ったリリースが早い領域が多かったですが、離脱後はほとんど見られません。その影響で離脱後は成績が復調した可能性があります。

前田健太投手の離脱前後の空振り率

上図は5月23日に故障者リスト入りする前後の球種別空振率です。

故障者リスト入りする前まではチェンジアップ縦スラは15%程度でしたが、離脱後は20%以上と2020年並に戻っています。

やきゅまる
リリース位置がチェンジアップと縦スラの空振率に影響していそう

ゴロが減り、フライが増える

前田健太投手の被打球種類比率(2020-2021年)

上図は各球種、全体、メジャー平均の被打球種類です。

2021年はゴロ率が減り(49%→40%フライ率が増えました(15%→25%。球種別に見ると、特にストレート、ツーシームがその傾向が強いです。

やきゅまる
ゴロアウトが減ったのは不調の一因かもね

対左打者の方が成績が落ちる

前田健太投手の対左右成績(2020-2021年)

2020年、2021年の成績を見ると、対左打者の方が成績が落ちています。この傾向は2016年から6年連続であるため、左打者の方が苦手としていると言えます。

最も顕著なのは四死球で、左打者の方が多い傾向にあり、これは左打者に多く投げるチェンジアップがボールゾーンに投げることが多いためだと考えられます。

やきゅまる
むしろ2020年は右打者に四死球1とか凄すぎ

対ピンチ×

前田健太投手の得点圏成績(2020-2021年)

上は状況別の平均球速と被打率のグラフです。

得点圏打率(.353→.321)被OPS(1.274→.872)と、対ピンチにかなり弱いです。ただ、2020年は得点圏の打数自体がかなり少ないので、そもそもピンチをほとんど作らなかったみたいです。

やきゅまる
2020年はwhip0.75にも関わらず、防御率が2.70もあった原因だね

対ピンチでも球速が一定

前田健太投手の状況別球速・被打率(2021年)

「走者なし」での球速と、「走者あり」や「得点圏」での球速がほぼ一緒くらいです。

大谷翔平投手のように対ピンチに強い投手の多くは、得点圏で球速が上がる傾向ですが、前田健太投手にはその傾向が見られないため、得点圏で打たれやすいのかもしれません。

やきゅまる
あとはセットだと打者がタイミング取りやすいのかな?

ストレートとツーシームの成績悪化

前田健太投手の球種別成績(2020-2021年)

上はOPSのグラフ、下は球種別の成績です。

2021年はストレート(OPS.225→OPS.932)ツーシーム(OPS.705→OPS1.260)の成績が悪化しました。特にストレートはMLB最低だった被打率.085から.300まで悪化しており、2021年の成績悪化の最大原因となりました。

やきゅまる
2020年に全く打たれなかったストレートが急に打たれたね

平均球速145.8km/h、2264回転

前田健太投手の球速・回転数(2021年)

上図は球種別の平均球速と回転数のグラフで、△はMLB平均を表しています。

ストレート平均球速145.8km/hとMLB平均より遅く、回転数は2264回転とMLB平均くらいのボールです。

ツーシームも同様にMLB平均より5.7km/h遅く、回転数はMLB平均くらいです。

チェンジアップはMLB平均より2.2km/h遅く、回転数はMLB平均より約300回転少ないボールです。

逆に縦スラスライダーカーブはMLB平均より4~7km/h遅く、回転数はMLB平均より約100回転多いキレのあるボールです。

やきゅまる
キレのあるストレートなのに回転数が平均並なのが、いつも不思議

年別平均球速・平均回転数

前田健太投手の球速・回転数の年度別推移

2017年から平均球速148km/h前後でしたが、2021年は平均球速145.8km/h約2km/h低下しました。

回転数は2016年から2300回転前後ですが、緩やかに毎年減少しています。

やきゅまる
球速低下も不調の一因かもね

日別平均球速・平均回転数

前田健太投手の日別平均球速・平均回転数(2021年)

上図は2021年の登板日別の平均球速・平均回転数です。

開幕は149.3km/hありましたが、上下動を繰り返しながら球速は徐々に右肩下がりです。右肩下がりの原因はやはり右肘の影響の可能性が高そうです。

回転数は2250回転前後を一定で、粘着物質の取り締まり強化がされた6月21日以降も変化が見られません。このことから、粘着物質の取り締まり強化の影響は無いと考えられます。

やきゅまる
手術後は平均148km/hくらいになって欲しいね

回別平均球速

前田健太投手の回別平均球速(2021年)

ストレートの平均球速が1回は145.0km/hですが、尻上がりに球速が上がって6回に最高の147.4km/hになっています。

やきゅまる
一番点を取られやすい6回にピークを持ってきているのは流石

チェンジアップはスプリット並の落差

回転軸

前田健太投手の回転軸(2021年)

上図は捕手側から見た球種別の回転軸の向きで、△はMLB平均を表しています。数値は回転数で、中心から離れるほど回転数が多くなります。

変化量

前田健太投手の変化量(2020-2021年)

上図は捕手側から見た球種別の変化量で、△はMLB平均を表しています。

ストレートツーシームはMLB平均並の変化量です。

チェンジアップはMLB平均より13cmも落ちて、スプリット並に落ちるボールです。握りも若干挟んでいるため、2021年は「Split-Finger」に分類されていました。

縦スラは本人は「変化量が大きい」と主張していますが、データ上はMLB平均よりも変化量が小さいボールです。

スライダーは横変化量がMLB平均よりも5cm大きく、横に滑るボールです。

2021年に改良したカーブは2020年やMLB平均よりも変化量が大きく、大きく曲がるカーブです。

やきゅまる
最大武器のマエケンスライダーは意外と変化量は大きくない

低めのボールが高い

前田健太投手のヒートマップ(2020-2021年)

ストレートツーシームスライダーは2020年に比べると低めのボールが高くなり真ん中付近に集まっています。これが成績を落とした一因かもしれません。

成績の良いチェンジアップは低め右への縦スラはアウトローにしっかり投げ込まれていて、真ん中付近のボールが少ないです。

やきゅまる
やっぱり投球コースは大事だね

右のアウトコース、左の低めの成績悪化

前田健太投手のコース別成績(2020-2021年)

2020年に比べると、右のアウトコース、左の低めの成績が悪化しています。これは低めギリギリのボールが減って、少しボールが高くなった影響だと考えられます。

一方、アウトローのボールゾーンは打数が非常に多いのが特徴的で、しっかりアウトローのボール球を振らせています

やきゅまる
これだけボール球を振らせているのは凄いね

カーブ以外の軌道が非常に似ている

前田健太投手の軌道(2021年)

前田健太投手の最大の特徴として、カーブ以外の球種間のリリース位置が近く、軌道が非常に似ています

まとめ

前田健太投手の総評
まとめ

①トミー・ジョン手術から9月復帰予定
②2021年は6球種
③初球×
④2021年はリリース位置が約5cm高く、約5cm球離れが早くなった
⑤球離れが早いボールが減ると、成績が復調
⑥ゴロが減り、フライが増える
⑦対左打者の方が成績が落ちる
⑧対ピンチ×
⑨ストレートとツーシームの成績悪化
⑩平均球速145.8km/h、2264回転
⑪尻上がり
⑫チェンジアップはスプリット並の落差
⑬2021年は全体的にボールが高い

今回は「【ツインズ】前田健太投手の2021年の投球分析」を紹介しました。

2020年はサイヤング賞の投票で2位という活躍をしましたが、2021年は開幕から打たれることが多く、5月の登板では股関節を痛めて5月23日に故障者リスト入りしました。

6月14日に復帰後は4勝3敗で防御率4.24、被打率.229、奪三振率10.5と復調の気配を見せていましたが、8月21日の試合で右前腕の痛みを再度訴えて負傷降板しました。そして、8月27日に右肘を手術することを発表して、9月1日にトミー・ジョン手術を受けて、復帰は2022年9月になる予定です。

最終的には、2021年は6勝5敗防御率4.66被打率.259奪三振率9.6の成績に終わり、前田健太投手としては不本意なシーズンになりました。

前田健太投手の特徴としては「制球力が高い」「初球×「対左打者の方が成績が落ちる」「対ピンチ×「尻上がり」「チェンジアップはスプリット並の落差」「球種間の軌道差が小さい」などが挙げられます。

2021年の不調の原因としては「リリース位置(球離れが早い)」「球速低下」「低めのボールが高い」の3つが考えられます。特にストレートツーシームは球速が低下して、低めのボールが高かったためか、かなり成績を落としました。

9月に復帰する際は、これらの課題を修正して、進化した姿で戻ってきて欲しいと思います。

やきゅまる
リハビリはつらいと思うけど、進化して戻ってきて欲しい