第188回 【前田健太】不調原因は「リリース位置」と「球速低下」?(2021年投球分析)
ツインズの前田健太投手(33)が右肘の内側側副靭帯(じんたい)再建手術(通称トミー・ジョン手術)から2022年9月に超速で復帰する可能性が出てきました。
従来の術式は復帰まで平均12~16カ月かかっていましたが、前田健太投手が受けた肘に補強具(ブレース)を肘に入れる最先端の術式ではわずか9~12カ月で済む可能性があるそうです。手術を受けたのは2021年9月なので、2022年9月には復帰出来る可能性があります。
今回はそんな「【ツインズ】前田健太投手の2021年の投球分析」を紹介します。
Baseball SavantとFanGraphsのデータを使用します。
- 1. まさかのトミー・ジョン手術
- 2. 2021年は6球種
- 3. 左右投球割合は2020年と同様
- 4. ツーシームとカーブ以外はカウント球と決め球のどちらでも使用
- 5. 初球×
- 6. リリース位置が約5cm高く、約5cm球離れが早い
- 7. 不調の原因は球離れが早いこと?
- 8. ゴロが減り、フライが増える
- 9. 対左打者の方が成績が落ちる
- 10. 対ピンチ×
- 11. 対ピンチでも球速が一定
- 12. ストレートとツーシームの成績悪化
- 13. 平均球速145.8km/h、2264回転
- 14. チェンジアップはスプリット並の落差
- 15. 低めのボールが高い
- 16. 右のアウトコース、左の低めの成績悪化
- 17. カーブ以外の軌道が非常に似ている
- 18. まとめ
まさかのトミー・ジョン手術
2020年は6勝1敗で防御率2.70、MLBトップのWHIP0.75と好成績を収め、サイヤング賞の投票で2位という飛躍の年でした。
2021年も活躍が期待されましたが、開幕から打たれることが多く、5月の登板では股関節を痛め、5月23日に故障者リスト入りしました。故障者リスト入り前の4-5月の成績は、2勝2敗で防御率5.27、被打率.301、奪三振率8.2でした。
6月14日に復帰後は4勝3敗で防御率4.24、被打率.229、奪三振率10.5と復調の気配を見せていましたが、8月21日の試合で右前腕の痛みを再度訴えて負傷降板しました。8月27日には右肘を手術することを発表して、9月1日にトミー・ジョン手術を受けて、復帰は2022年9月になる予定です。
最終的には、2021年は6勝5敗で防御率4.66、被打率.259、奪三振率9.6の成績に終わりました。
前田健太投手の特徴としては、「球速は速くない」「球種間のリリースの差が小さい」「ストレートと変化球の見極めが難しい」「制球力が高いため四死球が少ない」「奪三振率が高い」が挙げられます。
2021年は6球種
左は年別、右は日別の投球割合で、色が球種を表しています。
2021年の持ち球はストレート、ツーシーム、チェンジアップ、縦スラ、スライダー、カーブの6球種です。
2021年序盤はツーシームとスライダーの割合が多く、後半はチェンジアップと縦スラの割合が多くなっています。カットボールは2021年は投げませんでした。
カーブの握りはナックルカーブのようにも見えるのですが、今回はbaseball savantの分類通りにカーブとしています。
※縦スラとスライダーの分類について
縦スラとスライダーは「回転軸」から分類しました。「回転軸」で分類した理由は、下記のyoutubeで前田健太投手が「スライダーは握りは一緒でリリースの向き(回転軸)が違う」と発言されていたためです。
左右投球割合は2020年と同様
上は2020年、下は2021年の左右別投球割合で、色が球種を表しています。
2020年と同様に、右打者に縦スラが多く、左打者にチェンジアップとカーブが多いです。
また、左右共にストレートの割合がやや多くなっています。
ツーシームとカーブ以外はカウント球と決め球のどちらでも使用
ツーシームとカーブとは初球などのカウント球で使用することが多く、その他のボールはカウント球と決め球のどちらでも使用しています。
前田健太投手の特徴としては、ボールが先行しても投球割合に偏りが見られないことです。
他の投手はボールが先行したら、ストレートなどの制球に自信があるボールの割合が多くなりますが、前田健太投手にはそれが見られません。そのため狙い球を絞りにくいです。
初球×
2020年に比べると、2021年は初球に打率.360、6本塁打と非常に打たれています。
また、0ストライクも打率.394、7本塁打と打たれています。打数自体も多いことから、ファーストストライクを狙い打たれたようです。
リリース位置が約5cm高く、約5cm球離れが早い
左図は捕手目線、右図は三塁側から投手を見たリリースポイントです。△はMLB平均のリリースポイントです。
2020年と比べると、リリース位置が約5cm高く、約5cm球離れが早いです。
前田健太投手の特徴としてはカーブを除いて、球種間のリリース位置の差が非常に小さいです。
エクステンションについては、意外にもMLB平均よりも球離れが早いです。
これは本人のyoutubeでも「歩幅を広すぎないようにしている」と語っていたので、歩幅の小ささと体格の影響と考えられます。必ずしも「エクステンションが大きい」が良い訳ではないのが、野球の難しいところです。
不調の原因は球離れが早いこと?
上図は5月23日に故障者リスト入りする前後のリリース位置(三塁側からの目線)です。△は2020年の前田健太投手のリリース位置です。
離脱前は赤丸で囲ったリリースが早い領域が多かったですが、離脱後はほとんど見られません。その影響で離脱後は成績が復調した可能性があります。
上図は5月23日に故障者リスト入りする前後の球種別空振率です。
故障者リスト入りする前まではチェンジアップと縦スラは15%程度でしたが、離脱後は20%以上と2020年並に戻っています。
ゴロが減り、フライが増える
上図は各球種、全体、メジャー平均の被打球種類です。
2021年はゴロ率が減り(49%→40%)、フライ率が増えました(15%→25%)。球種別に見ると、特にストレート、ツーシームがその傾向が強いです。
対左打者の方が成績が落ちる
2020年、2021年の成績を見ると、対左打者の方が成績が落ちています。この傾向は2016年から6年連続であるため、左打者の方が苦手としていると言えます。
最も顕著なのは四死球で、左打者の方が多い傾向にあり、これは左打者に多く投げるチェンジアップがボールゾーンに投げることが多いためだと考えられます。
対ピンチ×
上は状況別の平均球速と被打率のグラフです。
得点圏打率(.353→.321)、被OPS(1.274→.872)と、対ピンチにかなり弱いです。ただ、2020年は得点圏の打数自体がかなり少ないので、そもそもピンチをほとんど作らなかったみたいです。
対ピンチでも球速が一定
「走者なし」での球速と、「走者あり」や「得点圏」での球速がほぼ一緒くらいです。
大谷翔平投手のように対ピンチに強い投手の多くは、得点圏で球速が上がる傾向ですが、前田健太投手にはその傾向が見られないため、得点圏で打たれやすいのかもしれません。
ストレートとツーシームの成績悪化
上はOPSのグラフ、下は球種別の成績です。
2021年はストレート(OPS.225→OPS.932)とツーシーム(OPS.705→OPS1.260)の成績が悪化しました。特にストレートはMLB最低だった被打率.085から.300まで悪化しており、2021年の成績悪化の最大原因となりました。
平均球速145.8km/h、2264回転
上図は球種別の平均球速と回転数のグラフで、△はMLB平均を表しています。
ストレートは平均球速145.8km/hとMLB平均より遅く、回転数は2264回転とMLB平均くらいのボールです。
ツーシームも同様にMLB平均より5.7km/h遅く、回転数はMLB平均くらいです。
チェンジアップはMLB平均より2.2km/h遅く、回転数はMLB平均より約300回転少ないボールです。
逆に縦スラとスライダーとカーブはMLB平均より4~7km/h遅く、回転数はMLB平均より約100回転多いキレのあるボールです。
年別平均球速・平均回転数
2017年から平均球速148km/h前後でしたが、2021年は平均球速145.8km/hと約2km/h低下しました。
回転数は2016年から2300回転前後ですが、緩やかに毎年減少しています。
日別平均球速・平均回転数
上図は2021年の登板日別の平均球速・平均回転数です。
開幕は149.3km/hありましたが、上下動を繰り返しながら球速は徐々に右肩下がりです。右肩下がりの原因はやはり右肘の影響の可能性が高そうです。
回転数は2250回転前後を一定で、粘着物質の取り締まり強化がされた6月21日以降も変化が見られません。このことから、粘着物質の取り締まり強化の影響は無いと考えられます。
回別平均球速
ストレートの平均球速が1回は145.0km/hですが、尻上がりに球速が上がって6回に最高の147.4km/hになっています。
チェンジアップはスプリット並の落差
回転軸
上図は捕手側から見た球種別の回転軸の向きで、△はMLB平均を表しています。数値は回転数で、中心から離れるほど回転数が多くなります。
変化量
上図は捕手側から見た球種別の変化量で、△はMLB平均を表しています。
ストレート、ツーシームはMLB平均並の変化量です。
チェンジアップはMLB平均より13cmも落ちて、スプリット並に落ちるボールです。握りも若干挟んでいるため、2021年は「Split-Finger」に分類されていました。
縦スラは本人は「変化量が大きい」と主張していますが、データ上はMLB平均よりも変化量が小さいボールです。
スライダーは横変化量がMLB平均よりも5cm大きく、横に滑るボールです。
2021年に改良したカーブは2020年やMLB平均よりも変化量が大きく、大きく曲がるカーブです。
低めのボールが高い
ストレート、ツーシーム、スライダーは2020年に比べると低めのボールが高くなり、真ん中付近に集まっています。これが成績を落とした一因かもしれません。
成績の良いチェンジアップは低め、右への縦スラはアウトローにしっかり投げ込まれていて、真ん中付近のボールが少ないです。
右のアウトコース、左の低めの成績悪化
2020年に比べると、右のアウトコース、左の低めの成績が悪化しています。これは低めギリギリのボールが減って、少しボールが高くなった影響だと考えられます。
一方、アウトローのボールゾーンは打数が非常に多いのが特徴的で、しっかりアウトローのボール球を振らせています。
カーブ以外の軌道が非常に似ている
前田健太投手の最大の特徴として、カーブ以外の球種間のリリース位置が近く、軌道が非常に似ています。
まとめ
①トミー・ジョン手術から9月復帰予定
②2021年は6球種
③初球×
④2021年はリリース位置が約5cm高く、約5cm球離れが早くなった
⑤球離れが早いボールが減ると、成績が復調
⑥ゴロが減り、フライが増える
⑦対左打者の方が成績が落ちる
⑧対ピンチ×
⑨ストレートとツーシームの成績悪化
⑩平均球速145.8km/h、2264回転
⑪尻上がり
⑫チェンジアップはスプリット並の落差
⑬2021年は全体的にボールが高い
今回は「【ツインズ】前田健太投手の2021年の投球分析」を紹介しました。
2020年はサイヤング賞の投票で2位という活躍をしましたが、2021年は開幕から打たれることが多く、5月の登板では股関節を痛めて5月23日に故障者リスト入りしました。
6月14日に復帰後は4勝3敗で防御率4.24、被打率.229、奪三振率10.5と復調の気配を見せていましたが、8月21日の試合で右前腕の痛みを再度訴えて負傷降板しました。そして、8月27日に右肘を手術することを発表して、9月1日にトミー・ジョン手術を受けて、復帰は2022年9月になる予定です。
最終的には、2021年は6勝5敗で防御率4.66、被打率.259、奪三振率9.6の成績に終わり、前田健太投手としては不本意なシーズンになりました。
前田健太投手の特徴としては「制球力が高い」「初球×」「対左打者の方が成績が落ちる」「対ピンチ×」「尻上がり」「チェンジアップはスプリット並の落差」「球種間の軌道差が小さい」などが挙げられます。
2021年の不調の原因としては「リリース位置(球離れが早い)」「球速低下」「低めのボールが高い」の3つが考えられます。特にストレートとツーシームは球速が低下して、低めのボールが高かったためか、かなり成績を落としました。
9月に復帰する際は、これらの課題を修正して、進化した姿で戻ってきて欲しいと思います。