第184回 【大谷翔平】2021年の投球分析(総括)
2021年は大谷翔平投手の全試合の投球分析を記事にしましたが、総括をしていませんでした。
そのため今回は「【エンゼルス】大谷翔平投手の投球分析(2021年総括)」を紹介します。
データはBaseball SavantとFanGraphsのデータを使用します。
- 1. 2021年はエース級の成績
- 2. 2021年は新たにスラッター、スプリームを投球
- 3. 右にスラッター、左にスライダーが投球増加
- 4. 左打者のカウント球が課題
- 5. 初球、ボールが先行すると打たれる
- 6. リリースは体に近く、高く、球持ちが良くなる
- 7. 被打球種類比率はほぼMLB平均
- 8. 対左打者が課題
- 9. 対ピンチ◎
- 10. 変化球の成績が良い
- 11. 平均球速153.8km/h、2218回転
- 12. ストレートは真っスラ
- 13. ストレート、スラッターが真ん中付近
- 14. 被長打は真ん中付近
- 15. 左のインローは三振が奪えていない
- 16. 左打者のインハイのボールが欲しい
- 17. 軌道が似ているのに左右の変化幅が大きい
- 18. まとめ
2021年はエース級の成績
投手としては2018~2020年は怪我で年間投げることが出来ませんでしたが、2021年はメジャー移籍後初めて年間を通して活躍出来ました。
2021年の成績は9勝2敗、防御率3.18(8位)、WHIP1.09(8位)、被打率.205(4位)、奪三振率10.8(5位)とエース級の成績を残しました。トミー・ジョン手術明けのシーズンとしては、成績以上に23試合130回1/3を投げたことが最も大きな成果といえそうです。
2021年は新たにスラッター、スプリームを投球
左は年別、右は日別の投球割合で、色が球種を表しています。
2018~2020年の大谷翔平投手の持ち球はストレート、フォーク、スライダー、カーブの4球種でした。
2021年は新たにスラッター、スプリームの2球種が増えました。
スラッターは打たせて取るピッチングをするため、2021年の序盤から投球しました。調子によって前半戦は投げない日も多かったですが、後半戦は全試合投球しました。
スプリームは9月10日のアストロズ戦で3回1/3を6失点とフォークの制球が出来ずに炎上したことがきっかけで、9月19日から投球しました。「大谷翔平投手は9月19日からフォークの握りを変えた」と、誤解されている記事をよく見ますが、実際は9月19日からはスプリームと今までのフォークの両方を投げています。2021年のフォークのストライク率33%に対して、スプリームのストライク率45%と高く、スプリームは制球力重視でカウントも取れるボールです。
※スラッターはカットボールの一種で、MLB平均より遅くて変化量が大きいスライダーに近いボールなので、当ブログではスラッターと呼称しています。
※スプリームはMLB平均のスプリットに近いツーシームジャイロ回転のボールですが、「千賀投手のスプリームと同じ握り、回転であること」から当ブログではスプリームと呼称しています。
右にスラッター、左にスライダーが投球増加
上は2018年、下は2021年の左右別投球割合で、色が球種を表しています。
右打者にはフォークとスライダーの割合が減って、スラッターを18%も投球しました。
左打者にはフォークとカーブの割合が減って、スライダーの投球割合が増加しました。
スプリームは左右関係なく、投球しています。
左打者のカウント球が課題
フォークは決め球での投球率が高く、スラッターはカウント球(初球やボール先行)としての投球率が高いです。ただし、スラッターは左打者への投球が少なく、左打者にボールが先行するとストレートの割合が72%と非常に高くなっています。
そのため左打者のカウント球が課題ですが、この課題を解決してくれそうなのがスプリームです。スプリームは制球力重視でカウント球と決め球の両方で使えて、対左打者にも投球出来ているので、2022年は投球数が増えそうです。
初球、ボールが先行すると打たれる
当たり前ですが、初球とボールが先行すると打たれています。特に初球は被打率.382、5本とかなり打たれています。
リリースは体に近く、高く、球持ちが良くなる
左図は捕手目線、右図は三塁側から投手を見たリリースポイントです。△は2018年のリリースポイントです。
2018年に比べるとリリースポイントが体に約10cm近く、約5cm高くなりました。また球持ちが約10~20cmも良くなり、直球と変化球の差が小さくなりました。
被打球種類比率はほぼMLB平均
上図は各球種、全体、メジャー平均の被打球種類です。
大谷翔平投手はほぼMLB平均くらいの打球種類比率です。
球種別ではストレート、スプリーム、フォークはゴロ率が高く、フライ率が低いです。一方、スラッター、スライダー、カーブはフライ率が高く、改善の余地がありそうです。
対左打者が課題
2018年は対左打者に強かったですが、2021年は対左打者に被打率.230、OPS.719と少し打たれました。特に本塁打は12本も打たれており、課題と言えそうです。
対
対ピンチ◎
上は状況別の平均球速と被打率のグラフです。
大谷翔平投手は得点圏ではギアが上がり、球速が153.3km/hから155.7km/hまで2.4km/hも上がります。
反比例して被打率は.237から.122まで一気に下がっており、かなり対ピンチに強い投手です。また得点圏での長打も少なく、被長打率は驚異の.178でした。
変化球の成績が良い
上はOPSのグラフ、下は球種別の成績です。
2018年はストレートがかなり打たれましたが、変化球はほぼ打たれませんでした。
2018年に比べるとストレートの成績が少し良くなっています。これはスラッターを投げるようになり、ストレートに絞りにくくなった影響と考えられます。ただ、左打者にはスラッターが少ないためか、7本も本塁打を打たれています。
成績が悪化したのはカーブで、2021年は被打率.308とかなり打たれました。
平均球速153.8km/h、2218回転
上図は球種別の平均球速と回転数のグラフで、△はMLB平均を表しています。
2021年のストレートの平均球速153.8km/h、2218回転で、2018年に比べると平均1.8km/h下がり、約50回転上がりました。
スプリームはフォークよりも3.3km/h速く、MLB平均のスプリットよりも6.3km/h速いです。
フォークは2018年よりも0.7km/h速く、MLB平均よりも3km/h速いです。
スラッターはMLB平均のカットボールよりも3.9km/h遅く、160回転少ないです。大谷翔平投手のポテンシャルを考えると、もっと球速が速くて回転数が多いボールに出来そうです。
スライダーは2018年よりも1.2km/h速くなりましたが、MLB平均よりも4.4km/h遅いので、もう少し速くした方が良さそうです。
カーブは日ハム時代から「カーブは2種類投げている」という記事もあった通り、球速が速くて回転数の多い「パワーカーブ」と、球速が遅くて回転数の少ない「スローカーブ」の2種類のグループが見られます。
回別平均球速
ストレートの平均球速が1回は152.9km/hですが、3回以降は154km/h以上と尻上がりに球速が上がっていきます。
日別平均球速
上図は2021年の登板日別の平均球速です。
ストレートは5月19日に球速がかなり落ちましたが、6月以降は平均154km/h前後で安定しています。
また9月に入り、フォークとスライダーの球速が上昇しています。
日別平均回転数(2021年)
全球種の登板日別の平均回転数です。
全球種が緩やかに回転数が減少傾向です。開幕当初から緩やかに減少傾向なので、二刀流による疲労が主な原因ではないかと思います。
ただ8月以降はストレートの回転数は平均2000~2100回転で安定しています。
ストレートは真っスラ
回転軸
上図は捕手側から見た球種別の回転軸の向きで、△はMLB平均を表しています。数値は回転数で、中心から離れるほど回転数が多くなります。
ストレートの回転軸はややMLB平均よりもバックスピン寄りです。
スライダーの回転軸はMLB平均よりも大きくカーブ側に近いです。
変化量
上図は捕手側から見た球種別の変化量で、△はMLB平均を表しています。
ストレートはシュート成分が8cmも少ない真っスラです。
スプリームはMLB平均のスプリットとほぼ同じくらいの変化量です。MLBツーシームも一応プロットしましたが、MLBツーシームとは異なる変化量です。
フォークは2018年よりもさらにシュート成分が少なく、ストレートと同じ-10cmです。ストレートとの落差が33cmもあります。
スラッターはMLB平均よりも縦変化量が10cmも大きく、縦に落ちるボールです。
スライダーはスライド成分が40cmもあり、MLB平均よりも24cmも横に大きく曲がるボールです。
カーブは縦、横ともに変化量が大きいです。
ストレート、スラッターが真ん中付近
ストレートが真ん中付近に集まっているので、もう少し高めに集められると空振りをもっと取れそうです。
スラッターも真ん中付近に集まっているので、右打者のアウトロー(左打者のインロー)にもう少し集めたいところです。
成績を落としたカーブは制球が安定しておらず、左打者に対して高めに集まっています。
被長打は真ん中付近
被長打は左右ともに真ん中付近に集まっています。
左右ともにインハイは長打を打たれていないので、インハイのストレートをもう少し増やして良いかもしれません。
左のインローは三振が奪えていない
ストレートは右打者には真ん中付近に集まっていますが、スライダーとフォークのイメージがあるため三振が奪えていそうです。左打者には高めのストレートで三振を多く奪っています。
フォークは左右ともに低めで三振を多く奪えています。ただし、左打者にはアウトコースのストライクゾーン内でも三振を多く奪えています。
スライダーは右打者にはアウトコースで三振を多く奪えています。スライダーの場合は高さよりもコースの方が重要そうです。左打者にはアウトコースとインローのボールゾーンで三振を奪えています。
左打者のストライクゾーン内のインローでは三振を奪えていないので、膝元へのスライダーを増やしても良いかもしれません。
左打者のインハイのボールが欲しい
右打者にはアウトコース、インローの成績が良いです。一方、左打者にはアウトロー、インローの成績が良いです。
左右ともにインハイへの投球数が少ないので、もう少しストレートをインハイに投げても良いかもしれません。
軌道が似ているのに左右の変化幅が大きい
カーブ以外の軌道はピッチトンネルあたりまで似ていますが、そこから70cm近く左右に大きく変化していきます。このことから、今まで無かったシュート方向のスプリームが加わることで、スライダー方向の変化球がさらに活きてきそうです。
まとめ
①9勝2敗、防御率3.18
②新たに2球種習得(スラッターとスプリーム)
③右にスラッター、左にスライダーの割合が増加
④左打者のカウント球が課題
⑤リリースが体に近くて高くなり、球持ちが良くなった
⑥打球種類比率はほぼMLB平均
⑦得点圏で球速が2.4km/hも上がり、対ピンチに強い
⑧カーブの成績が悪化
⑨平均球速153.8km/h、2218回転
⑩尻上がり
⑪開幕から回転数が徐々に減少
⑫ストレートは真っスラ
⑬スライダーはスライド成分が40cm
⑭被長打はほぼ真ん中付近
今回は「【エンゼルス】大谷翔平投手の投球分析(2021年総括)」を紹介しました。
投手としては2018~2020年は怪我で年間投げることが出来ませんでしたが、2021年はメジャー移籍後初めて年間を通して活躍出来ました。
2021年は肘への負担軽減のためにフォーム変更したため、リリースポイントが体に約10cm近く、約5cm高く、球持ちが約10~20cm良くなりました。
2021年の成績は9勝2敗、防御率3.18(8位)、WHIP1.09(8位)、被打率.205(4位)、奪三振率10.8(5位)とエース級の成績を残しました。トミー・ジョン手術明けのシーズンとしては、成績以上に23試合130回1/3を投げたことが最も大きな成果といえそうです。
2021年は新たにスラッターとスプリームの2球種が増え、打たせて取るピッチングも出来るようになって投球の幅が広がりました。
カーブの成績が悪化した影響もあり、左打者のカウント球でストレートの割合が非常に高くなったため、2021年は左打者に少し打たれました。また、カウント球のストレートとスラッターが真ん中付近への投球が多く、カウント球を多く長打されました。
尻上がりに球速が1~2km/h上がったり、得点圏で球速が2.4km/hも上がることから、力配分をしながらゲームをコントロールした投球をしていました。
変化球の変化量はどれも一級品で、特にスライダーはスライド成分が40cmもあります。ただ、ストレートは回転数2218回転でホップ成分は39cmとMLB平均41cm以下なので、欲を言えばもっとホップ成分が欲しいです。
開幕時は2449回転でホップ成分が42cmあったので、その能力は十分あると思います。
トミー・ジョン手術明けのシーズンとしては十分すぎる投球を見せてくれましたが、「左打者のカウント球」「ストレートのホップ成分」「投球コース」「曲がり球の球速」など、まだまだ伸びしろがあるので、2022年の投球が楽しみです。