第202回 【菊池雄星】ストレートがシュート回転へ(2021年投球分析)
2022年3月12日、マリナーズからフリーエージェントとなっていた菊池雄星投手(30)がブルージェイズと合意したと、複数のメディアが報じました。
3年契約で、22年は年俸1600万ドル(約18億4000万円)、23~24年は年俸1000万ドル(約11億5000万円)の総額3600万ドル(約41億4000万円)。
今回はそんな「【ブルージェイズ】菊池雄星投手の2021年の投球分析」を紹介します。
Baseball SavantとFanGraphsのデータを使用します。
1. 年度別成績
2021年前半戦はエース級の成績
開幕4戦は防御率5.70と苦しみましたが、その後は安定して7月1日終了時点では防御率3.18、被打率.195、奪三振率9.0、与四死球率3.1とエース級の成績でした。
7月4日にはオールスターにも選出されましたが、直前の7月12日にコロナ関連で故障者リスト入りして出場は出来ませんでした。
後半戦の登板は5人制ローテに変更された影響か、1勝6敗で防御率6.22と調子を落としてしまいました。
最終的な2021年の成績は7勝9敗で防御率4.41、被打率.244、奪三振率9.3、与四死球率3.8とまずまずの成績でした。
菊池雄星投手の特徴としては「球速が速い」「被打率が低い」「奪三振が多い」などが挙げられます。
2. 球種・投球割合
球種は4球種
左は年別、右は日別の投球割合で、色が球種を表しています。
2021年の持ち球はストレート、カットボール、チェンジアップ、スライダーの4球種です。
2019年はカーブを投げていましたが、2020年以降は投げていません。
2020年以降はカットボールがストレート並に投球割合が多いのが特徴的でしたが、後半戦は少し投球割合が減っています。
右にチェンジアップ、左にスライダーが増加
上は2020年、下は2021年の左右別投球割合で、色が球種を表しています。
2020年に比べると右打者にはチェンジアップ(9%→13%)、左打者にはスライダー(19%→30%)と増加しました。
ボールが先行するとカットボール増加
ボールが先行するとカットボールが7割近くを占める程の割合です。
チェンジアップはほとんど決め球で、カウント球にはあまり使っていません。
3. 各成績
初球×
初球の被打率.377、6本塁打と初球をかなり打たれています。
また0ストライク(被打率.424、10本塁打)と1ストライク(被打率.347、11本塁打)と追い込むまでに打たれる傾向が強いです。
グラウンドボーラー
上図は各球種、全体、メジャー平均の被打球種類です。
2021年のゴロ率は50%とグラウンドボーラーです。カウント球として投球割合の多いカットボールがゴロ率59%と高く、有効に使えているといえそうです。
ただ、2020年のゴロ率53%からは減少していて、フライ率は17%→22%に上昇しています。
2021年は左打者〇
2020年は左打者が被打率.265、被OPS.657でしたが、2021年は被打率.148、被OPS.481と左打者をかなり抑えています。
一方、右打者は被打率.272、被OPS.832と成績が悪化しています。
対ピンチ○
得点圏での被打率.195、被OPS.578と対ピンチに強いです。
右打者にチェンジアップだけが優秀
左は2020年、右は2021年の球種別の成績です。
ストレートは被打率.211と優秀ですが、長打が多いため被OPS.727とまずまずの成績です。ただ、左打者には被打率.091、被OPS.234と驚異的な数字を残しています。
カットボールとスライダーは2020年は右打者に強かったですが、2021年は右打者に被打率.309と被打率.327とかなり打たれました。一方、左打者にはカットボールが被打率.193、スライダーが被打率.114とかなり優秀な数字です。
チェンジアップは唯一右打者に有効な球で、対右打者に被打率.167、被OPS.459と優秀です。
4. リリースポイント
球種間のリリースが大きく異なる
左図は捕手目線、右図は三塁側から投手を見たリリースポイントです。△はMLB平均のリリースポイントです。
2020年はカットボールだけが他の球種に比べて、体から遠く離れていました。
しかし、2021年はストレートとカットボールはほぼ同じリリースで、スライダーとチェンジアップとは離れています。
球持ちに関しては、MLB平均より約15cmも球持ちが良いです。
5. 球速と回転数
平均球速153.1km/h、2213回転
上図は球種別の平均球速と回転数のグラフで、△はMLB平均を表しています。
ストレートは平均球速が153.1km/hでMLB先発左腕7位(投球数100球以上)と、左腕としてはMLBトップレベルの球速です。
またカットボールは平均球速が147.0km/hで、MLB先発左腕1位(投球数100球以上)の高速カットボールです。
チェンジアップもMLB平均より4.2km/速く、回転数が約300回転少ないボールです。
スライダーだけはMLB平均より2.4km/h遅いですが、回転数が約50回転多いボールです。
年々平均球速と平均回転数が上がっている
2020年は一気に平均4km/h、82回転も上昇しましたが、2021年も平均0.2km/h、35回転上昇しています。
球速が成績に影響?
上図は2021年の登板日別の平均球速・平均回転数です。
開幕4戦は防御率5.70と苦しみましたが、その間の平均球速は152km/h前後でした。その後は7月1日まで平均球速155km/h前後まで球速が出ており、この間はエース級の成績でした。
5人制ローテに変更された影響か、7月7日以降は平均球速が152km/h前後まで下がっています。
153km/h以上の7/23、8/8、8/31はそれぞれ3失点、無失点、無失点と、やはり球速が出ている試合ほど成績が良いです。
一方、回転数は6月12日までは2350回転前後ですが、6月18日以降は2150回転前後まで下がっています。これは粘着物質の取り締まり強化と一致しており、約200回転も急に下がっているのはその影響だと考えられます。
尻上がり
初回は152.9km/h出ており、尻上がりに球速が上昇して7回は154.3km/hまで上がります。
6. 回転軸と変化量
回転軸
上図は捕手側から見た球種別の回転軸の向きで、△はMLB平均を表しています。数値は回転数で、中心から離れるほど回転数が多くなります。
後半戦はシュート回転のストレート増加
上図は捕手側から見た球種別の変化量で、△はMLB平均を表しています。
ストレートはMLB平均に比べるとシュート成分が7cm多くて、シュート回転しています。
カットボールはMLB平均に比べると変化量が少なく、曲がらないカットボールです。
チェンジアップはMLB平均よりシュート成分が8cm少なく、ストレートからの落差が6cm大きいです。
前半戦はどれも2020年と同様にMLB平均くらいのボールでしたが、後半戦は上記の傾向がそれぞれ強かったです。
スライダーだけは前後半で変化がありませんでした。スライダーはMLB平均より横変化量が8cm少なく、縦変化量が11cm大きい縦に大きく沈むスライダーです。
7. コース別
やや低めが多い
ストレート、カットボールはコースの偏りはあまり無く、やや低めへの投球が多いです。
スライダーもコースの偏りは無く、高めにも投げています。
チェンジアップは右打者のアウトコースと低めに制球されています。
右打者のゾーン内は打たれている
右打者には低めのボールゾーンの打数が非常に多く、チェンジアップでボール球を振らせられています。ただし、ゾーン内はほとんど打たれています。2020年と前半戦はインハイとアウトローの成績は良かったので、ストレートのノビが無くなったのが影響していそうです。
左打者には低めとアウトコースはほとんど打たれていません。
8. 軌道
ストレートとカットボール、スライダーとチェンジアップは軌道が似ている
「ストレートとカットボール」、「スライダーとチェンジアップ」は軌道が似ています。
しかし、ストレートに比べて「スライダーとチェンジアップ」はリリース位置が大きく異なるので、軌道も大きく異なります。
9. 2020年、2021年前半と後半の比較
ストレートがスライドライズからシュート回転へ
上図は前半戦と後半戦でストレートのリリースポイントと変化量が、どれだけ変化したかを表した図になります。また左下の表は「2020年」「2021年前半」「2021年後半」のストレートの数値です。
2020年に比べて前半戦はリリースポイントが5cm下がった影響で、回転軸が13度もシュート回転方向に傾いています。そのため、菊池雄星投手といえばスライドライズする真っスラという印象でしたが、2021年前半戦はシュートライズするようになりました。球速も出ているおかげか、被打率.164とかなり良い数字です。
後半戦はリリースポイントが体から離れて下がった影響で、さらに回転軸が10度もシュート回転方向に傾いています。そのため、ストレートのホップ成分が5cm減少、さらに9cmもシュート成分が増加するようになって、右打者に被打率.300も打たれるようになりました。
また前項の変化量から後半戦はチェンジアップは落差が大きいが、カットボールは曲がらないボールが増加。
スライダーのストライク率は56%→47%に減少しており、与四死球率も3.1→4.9に悪化しています。
このことから推察されることは
「チェンジアップを落としたい」または「5人制ローテの疲労」
↓
「リリースポイントが体から離れて下がる」
↓
「回転軸がシュート方向に傾く」
↓
「ストレートがノビの無いシュート回転」
「曲がらないカットボールが増加」
「スライダーの制球が乱れて四死球が増加」
に繋がったと考えられます。
まとめ
①前半戦は防御率3.18、後半戦は防御率6.22
②4球種
③ボールが先行するとカットボールが7割
④初球×
⑤グラウンドボーラー
⑥対左打者○
⑦対ピンチ○
⑧尻上がり
⑨平均球速153.1km/h、2213回転
⑩後半戦はストレートのリリース位置が大きく変化
⑪後半戦はストレートがノビの無いシュート回転
⑫後半戦は曲がらないカットボールが増加
⑬後半戦はスライダーのストライク率が低下して四死球が増加
今回は「【ブルージェイズ】菊池雄星投手の2021年の投球分析」を紹介しました。
菊池雄星投手の特徴としては「球速が速い」「被打率が低い」「奪三振が多い」「カウント球を打たれる」「グラウンドボーラー」「左打者に強い」「対ピンチに強い」「尻上がり」などが挙げられます。
特に「ストレートの平均球速153.1km/hはMLB先発左腕7位」、「カットボールの147.0km/hはMLB先発左腕1位」と球速が最大の武器です。
2021年の成績は7勝9敗で防御率4.41、被打率.244、奪三振率9.3、与四死球率3.8とまずまずの成績でした。
ただ、前半戦は防御率3.18、被打率.195、奪三振率9.0、与四死球率3.1とオールスターに選出されるほどの活躍でしたが、後半戦は1勝6敗で防御率6.22と調子を落としてしまいました。
この不調の原因を推察すると
「チェンジアップを落としたい」または「5人制ローテの疲労」
↓
「リリースポイントが体から離れて下がる」
↓
「回転軸がシュート方向に傾く」
↓
「ストレートがノビの無いシュート回転」
「曲がらないカットボールが増加」
「スライダーの制球が乱れて四死球が増加」
が考えられます。
2022年はリリース位置を修正して、ストレートがホップするような球質に戻れれば、2021年前半のようなエース級の活躍が期待出来そうです。
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