第217回 【ダルビッシュ有】不調原因は「リリースのバラつき」と「球速低下」?(2021年投球分析)
2022年3月22日、パドレスのダルビッシュ有投手(35)はロッキーズ戦でスプリングトレーニング初登板。3回無失点と好投、6奪三振、3安打、1与死球、最速154.6km/hという投球内容でした。
2022年3月27日、ガーディアンズ戦でスプリングトレーニングで2度目の登板。4回1失点と好投、4奪三振、2安打、無四死球、最速156.1km/hという投球内容でした。
どちらの試合も残念ながら変化量などのデータが無いため、今回は「【パドレス】ダルビッシュ有投手の2021年投球分析」を紹介します。
Baseball SavantとFanGraphsのデータを使用します。
1. 年度別成績
2021年前半戦はエース級の成績
2020年は日本人初の最多勝を取り、サイヤング賞も2位の大活躍でした。トレードでカブスからパドレスに移籍した2021年も6月終了時点で7勝2敗、防御率2.44、被打率.194とエース級の活躍。7月には通算5度目のオールスターに選出されましたが、出場は辞退しました。
7月以降は成績が一変して、打ち込まれることが多くなります。8月には腰の張りで故障者リスト入り、シーズン終了まで復調の兆しを見せること無く、シーズンが終了しました。
2021年の成績は8勝11敗、防御率4.22、被打率.222、被OPS.708でした。
ダルビッシュ有投手の特徴は「MLB1位の多彩な変化球」「回転数が多い」「奪三振率が非常に高い」「近年は与四死球が少ない」などが挙げられます。
2. 球種・投球割合
球種は11球種
左は年別、右は日別の投球割合で、色が球種を表しています。
持ち球はストレート、ツーシーム、ソフトカッター、スプリット、ハードカッター、チェンジアップ、スラッター、スライダー、カーブ、ナックルカーブ、スローカーブの11種類です。
カットボールにはもっと種類があり、スプリットの中にはスプリームも混ざっていますので、実際は11種類以上の変化球を投げていると考えられますが、当ブログではこれ以上は分類出来ませんでした。
年別の投球割合を見ると、2019年が大きな転換期で、縦に沈むカットボール(スラッター)の投球割合が多くなり、ストレートの割合が3割以下に減りました。
2021年の日別割合を見ると、スラッターを前半は38%投げていましたが、後半は23%に減っています。
※カットボール、カーブの分類について
当ブログではカットボールを回転数、変化量、回転軸から「回転数が少ないソフトカッター」、「ホップ成分が多いハードカッター」、「ホップ成分が少ないスラッター」の3種類に分類しています。また、カーブは68.6マイル以下はスローカーブに分類しています。
左右共にスプリットとスライダーが増加
上は2020年、下は2021年の左右別投球割合で、色が球種を表しています。
左右共にチェンジアップの代わりにスプリットが増加し、スライダーも増加しました。全体的には2020年からそこまで大きな変化は見られません。
ボールが先行するとスラッター増加
ボールが先行するとスラッターが6割以上と増加するため、スラッターを狙い打たれています。
ツーシームは基本はカウント球ですが、左打者には決め球としても使用しています。
ハードカッターは左打者の初球に投じられることが多いです。
スプリット、ナックルカーブはほぼ決め球で使用しています。
3. 各成績
初球×
初球は被打率.411、5本塁打と非常に打たれています。
また、ボール先行時や0ストライクや1ストライクなどのカウントを取りに行く時が打たれています。
フライボーラー
左は2020年、右は2021年の被打球種類です。
2020年はフライ率が16%しかありませんでしたが、2021年はフライ率30%とかなりのフライボーラーです。また被本塁打率も2%から5%に増加しました。
やはり投球割合の多く、打たせて取るボールのスラッターのフライ率が高くなったのは不調の一因だと考えられます。
左右差はあまりない
対左打者には被打率.222、被OPS.719とそれほど左右で成績に差がありません。
対ピンチ×
得点圏打率.262、被OPS.777と対ピンチに弱いです。
カットボールの成績が悪化
左は2020年、右は2021年の球種別の成績です。
2020年比べるとカットボール系のハードカッター、スラッターが被OPS.900以上と悪化しています。
ストレート、ツーシームは被OPSは少し悪化していますが、MLB平均よりは良く、被打率は1割台と優秀です。
スライダー、カーブ、ナックルカーブは左右共に優秀です。
球種成績だけを見れば、カットボールは減らして、スライダーやナックルカーブを増やした方が良さそうです。
4. リリースポイント
球離れが早くなった
左図は捕手目線、右図は三塁側から投手を見たリリースポイントです。△はMLB平均のリリースポイントです。
2020年に比べると、リリースポイントは約10cm体に近く、約5cm高くなりました。また、エクステンションも約5cm短くなり、球離れが早くなりました。
5. 球速と回転数
平均球速152.1km/h、2513回転
上図は球種別の平均球速と回転数のグラフで、△はMLB平均を表しています。
ストレートは平均球速152.1km/hとMLB平均以上で、MLB先発8位の2513回転とキレがある球です。
球速が速い球はMLB平均以上で、遅い球はMLB平均以下と緩急が大きいです。
回転数は落ちる球以外はMLBトップレベルの回転数を誇ります。
平均球速、回転数ともに例年並
2020年は平均球速が154km/hを超えていて、好調の一因でした。
2021年は平均152.1km/hと例年並でした。
回転数も2021年は2513回転と例年並でした。
粘着物質の取り締まり強化の影響?
上図は2021年の登板日別の平均球速・平均回転数です。
球速は152km/h前後で推移していますが、後半戦は150km/h前後まで落ちる日が多かったです。
回転数は6月9日までは2500~2600回転ですが、6月15日以降は2400回転前後まで約200回転減少しました。これは粘着物質の取り締まり強化の時期と一致しており、約200回転も急に下がっているのはその影響だと考えられます。
ただ、後半戦は2500回転前後まで回復し、2618回転の日もあります。また、スパイダークックを使用してそうな選手はこの2年ぐらいで急に回転数が上昇していますが、ダルビッシュ有投手は2016年から年間の回転数は2500回転前後で安定しています。
このことから、6月まではスパイダークックのような回転数を上げる物では無く、何かしらの滑り止めを使用していたのではないかと考えられます。6月はその滑り止めが使えず、滑るので回転数が急に下がりましたが、その状況にも少しずつ慣れて回転数が上昇したのではないかと思います。
尻上がり
初回から7回まで球速が安定しています。4回以降は尻上がりに球速が上がり、7回に最高の152.9km/hが出ています。
6. 回転軸と変化量
回転軸
上図は捕手側から見た球種別の回転軸の向きで、△と点線はMLB平均を表しています。数値は回転数で、中心から離れるほど回転数が多くなります。
ストレートはスライドライズ
上図は捕手側から見た球種別の変化量で、△はMLB平均を表しています。
ストレートはシュート成分が少なく、ホップ成分48cmと多いスライドライズな球です。
ツーシームはホップ成分が約11cm多いシュートのようなボールです。
スプリットは縦変化量が8cm多く、ストレートとの落差が小さいです。
ハードカッターはMLB平均よりホップ成分が約10cm多く、浮きながら曲がるようなボールです。
スラッターは回転軸がスライダーに近く、MLB平均より大きく縦に沈むボールです。
スライダーは回転軸がカーブに近く、MLB先発6位の横変化量を誇り、横に大きく曲がるボールです。
カーブとナックルカーブとスローカーブはMLB平均より変化量が大きいボールです。
7. コース別
2020年よりも低めの変化球が少ない
ストレートは右打者には高めとアウトロー、左打者には真ん中からアウトハイが多いです。
ツーシームは右打者にはインコースとアウトロー、左打者にはインコースから真ん中が多いです。
スプリットは他の投手に比べると低めのボールゾーンが少なく、少し高いです。
スラッターとスライダーはゾーン内が多いです。
カーブは低めではなく、ストライクゾーン内全体に投げています。
ナックルカーブは右打者はボール率が高く、左打者にはストライク率が高いです。
高低○
左右共に高めと低めの成績が良く、真ん中の高さが打たれています。ダルビッシュ投手の場合、投球する高さが重要と言えます。
ただし、左打者のアウトコースだけは高さで成績があまり変わりません。
8. 軌道
全体的に軌道が似ている
左上が全球種の軌道ですが、見にくかったので、グループ別に分けたのが他の図です。
全体的にストレートと軌道が似ており、特に左下のカットボール3種とスライダーは非常に似ています。
前後半戦の比較
後半戦はリリースのばらつきが大きい
上は調子の良かった4-6月、下は調子の悪かった7-9月のリリースポイントです。
7-9月の方がリリースポイントが体に近く、球種間のバラつきが大きいです。またストレートのリリースの標準偏差が0.042→0.051と大きくなっていました。
球速低下した球種の成績が悪化
左は調子の良かった4-6月、右は調子の悪かった7-9月の球種別成績・球速・回転数です。
球速が1km/h以上低下したストレート、ツーシーム、スプリット、スライダー、ナックルカーブの成績が悪化しています。
一方、球速が変わらなかったハードカッター、スラッター、カーブは成績もほぼ変わっていません。
前後半戦で変化量は変化なし
左は調子の良かった4-6月、右は調子の悪かった7-9月の変化量です。
前後半戦で「ストレートのホップ成分が少なくなった」などの可能性を考えて図を作成しましたが、結果はどの球種もほぼ変化量に変化が無いです。
このことから、変化量の変化で調子を落とした訳ではないみたいです。
まとめ
①6月終了時点で7勝2敗、防御率2.44
②2021年全体では8勝11敗、防御率4.22
③11球種
④ボールが先行するとスラッターが6割
⑤初球×
⑥球離れが早くなった
⑦フライボーラー
⑧対ピンチ×
⑨カットボールの成績が悪化
⑩平均球速152.1km/h、2513回転
⑪尻上がり
⑫ストレートはスライドライズ
⑬2020年よりも低めの変化球が少ない
⑭高低○
⑮後半戦はリリースのばらつきが大きい
⑯球速低下した球種の成績が悪化
今回は「【パドレス】ダルビッシュ有投手の2021年投球分析」を紹介しました。
2021年は6月終了時点で7勝2敗、防御率2.44、被打率.194とエース級の活躍でしたが、7月以降は成績が一変して、打ち込まれることが多くなりました。2021年の成績は8勝11敗、防御率4.22、被打率.222、被OPS.708でした。
ダルビッシュ有投手の特徴は「MLB1位の多彩な変化球」「回転数が多い」「奪三振率が非常に高い」「近年は与四死球が少ない」「初球×」「フライボーラー」「対ピンチ×」「尻上がり」「ストレートはスライドライズ」「高低○」などが挙げられます。
2020年に比べると、「球速が低下」「球離れが早い」「フライ率上昇」「カットボールの成績が悪化」などの変化がありました。
前後半戦を比較すると、後半戦は「リリースのばらつきが大きい」「球速低下した球種の成績が悪化」していることが分かりました。後半戦は体調が良くないという報道が多かったので、どちらもコンディション不良が原因かもしれません。
年齢による大きな衰えは見えず、スプリングトレーニングでは球速が出てるので、2022年は体調面が整いさえすれば、またサイヤング賞争いをする活躍が期待出来ると思います。
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